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セッする時、ドランクばっかり勝ってる気がして気に入らないスツルム殿の話 R-18


 覚醒し切らない頭に金属音が響く。朝焼けに薄らと照らされた甲板、欠伸を噛み殺しぼやけた視界の先では丁度、ドランクの作り出した障壁がスツルムの鋭い突きで破れるところだった。
魔力の粒子が煌めく中、間合いを詰めるスツルムへ水の刃が閃き、剣を一本弾いた。しかし、もう一方の腕が下から現れ、ドランクの首元に当てられる。
両手を上げるドランクにスツルムは剣を納めた。
「あ、おはよ〜、団長さん!」
「二人とも朝から元気だね……」
この二人が船に乗っている間、何度か目撃している鍛錬の光景だった。大抵朝方である。寝起きのドランクをスツルムが無理やり引きずっているような、そんな気がしてならないが。
「ねえねえどっちの方が強いの?」
純粋な興味が口を吐いた。この間は確かスツルムが剣を置いていたはずである。
「……そんなに差はない」
「うーん、スツルム殿の方が若干勝ち星が多いかなあ……僕、後方支援なんだんから、接近されると厳しいよ〜それにスツルム殿ったら風圧で魔法を消してくるんだもん」
「それくらい普通だ。おまえだって何でもするだろ」
「スツルム殿もするじゃない。剣を投げて殴りかかってきたりさ」
「勝てばいい。約束通り、昼飯はお前持ちだぞ、肉がいい」
「僕が勝ったら甘いスイーツのお店に行く予定だったんだけどね」
そう零しつつあまり残念そうに見えないのは、スツルムと出かけられるならその内容に頓着しないからだろう。何となくスツルムが発端かと思っていたが邪推するならこの勝負の提案を最初に始めたのはドランクだったのかもしれない。
「昼飯にそんなもの食べてられるか」
「ええ、パンケーキとか美味しいよ〜? 蜂蜜のた〜ぷりかかったやつとか。他にもスツルム殿と行きたいところあるんだよね〜」
「食べたいなら別の時でいいだろ、なんでわざわざ昼にそんなもの……」
「え!? スツルム殿〜それってぇ、いつでもデートしてくれるってこと?」
「は!? そんなこと言ってないだろっ!」
尻を突き刺されて飛び上がってるドランクを横目に一歩下がった。
二人の世界に入ってしまった。邪魔するのも悪いので存在を薄めてそのままそっと踵を返すことにした。

 

 


 気に入らない。本当に気に食わない。組み敷かれているのはいい。その行為が厭だったら、初めからゆるしていない。好きにさせる理由を自覚していないわけではないが気づかないふりはしている。否、そんなことは今は問題ではなかった。
「…っ」
「ん〜スツルム殿、よくなかった〜?」
 動きが止まって伺うように視線が過ぎた。スツルムと違い焦燥のかけらも無い落ち着いた瞳が彼女の様子を探る。
ちょっと表情を崩しただけなのにすぐに気づかれて余計、苛立つ。スツルムにそんな余裕はない。いつも一杯一杯だ。
「…別に」
「そうだよね、スツルム殿、こうされるの好きだもんね〜」
「っ、あ、あ、やぁ……っ!」
激しく腰を打ち付けられて、嬌声が溢れ出た。自分のものと思いたくない濡れた声色を抑え込みたいのにうまく飲み込めなくて、喉が勝手に音を鳴らす。体が大きく跳ねて、視界が白く弾けた。全身を走る快楽に短い呼吸が遠くに聞こえ、指先が震える。
額に口付けた唇が目尻の涙をすくいゆっくり弧を描く。
「スツルム殿のイッた顔、いつもすっごく可愛いよ〜、…ね、もう一回、見せて…」
快感の残滓を振り払うように奥歯を食んだ。
動きが再開するより先に腰を掴む手を払い除けた。肩を強く押して、敷布に引き倒す。見下ろした先に驚いた面があって少しだけ溜飲が下がった。
「わ、スツルム殿、なになに〜」
「おまえばっかり余裕ぶってて腹が立つ!」
「えぇ〜そんなこと言われたって……」
 困ったような微笑が余計癇に障った。駄々をこねるこどもをどうあやすか考えているみたいだ。
朝の鍛錬のように勝つまでとは望まないがせめて同等くらいだったらと思う。
 初めての時だって指先まで強張るスツルムと違い、始終落ち着いていたドランクに手慣れた様子で服は剥ぎ取られ、いつの間にか終わっていた。翌朝、スツルムは足腰ががたがたになって立てなかった。屈辱である。さらに浴室まで運ばれて隅から隅までドランクに綺麗にされた光景が蘇ってくるとさらに経験の差を感じてしまう。
あんなの恥だ。その恥が頻繁に起こることでしょっちゅう上塗りされるのも我慢ならない。
「じゃあこのままする? スツルム殿が上でもいいよ〜」
 歯形とキスマーク、見えてるよ、昨夜は随分、お楽しみだったみたいだね、どうせやられっぱなしだったんだろ、あいつ、手慣れてそうだもんねえ。
上に跨ってやったらちょっとくらい優位に立てるんじゃないかい?
不意に蘇ったのはたまたまギルドに寄った時、なにも言っていないのにドナがニヤニヤした顔で見透かしたように口にしていたことだった。その後、ドランクを殴ったのでよく覚えている。
きっと揶揄われただけだ。が少なくともスツルムよりおそらくずっと経験のあるドナの言うことだった。
「………する」
羞恥心に負けるより先に勢いでそう言い、膝を立てて、入り口にあてがうまではよかった。
だが上手く入らない。
見慣れているはずなのにその大きさを改めて目の当たりにして、奥歯が鳴った。
本当にこんなものがいつも入っているのだろうか。
「っ、…」
「……スツルム殿、ほんとに大丈夫? べつに無理しなくても……」
その言葉を振り切るように体重をかけて腰を落とす。深く入り込む感覚に丸めた手のひらが痛い。
「こ、れくらい、大丈夫だっ!」
震える両脚でなんとか支えていれば不意に腰を撫でられてびくりと半身が跳ねた。
「……じゃあ、これも勝負する?」
「…勝負って」
「先にイッたらなんでもひとつ言う事きくってどうかな?」
頻繁に行われる鍛錬の前と変わらない平然とした顔が腹立たしく、睨みつけながら首を縦に倒した。
「一週間の飯代だ」
「一カ月でもいいよ」
「言ってろ」
ドランクの胸元あたりに手を置きながら上下に腰を動かす。押し込める度、何度か出されたものが溢れて腿を伝う感覚にぞわりとする。
「んっ、…あ…っ…」
吐息に甘い声が溶けて、揺れる胸を撫でた。
「気持ちいいよ、スツルム殿〜…」
思ってもいない虚言を吐き出す唇を己のもので塞ぐ。嬉しそうに緩む瞳を視線で突き刺しながら、舌を差し出した。だが口づけていると上手く動けず先端が引っかかるだけで今にも抜けそうになる。
 一度唇を離そうとして、しかしドランクの上半身が持ち上がり追いかけるように舌先が絡んだ。
腰から臀部を撫でたかと思えば、ぐ、と力がかかる。再び深く食い込んだ熱が中で暴れ、強く奥を打ちつける。
「んッ! んっ、んん……!」
這い上がる快感が意識を白く染めていく。
呑まれる前に奥歯を噛み締めて現実にかえる。どくどくと脈打つ感覚が熱くて、苦しい。心臓の音がやけに近く、視界が滲む。
「そんなに我慢しなくてもいいのに……」
「っうるさい、負けてたまるか」
「もお、スツルム殿ったらホント負けず嫌いなんだから……」
涙を舐める舌先にすらぞわりとして、身を引こうとした。けれど頭にまわった掌が髪を撫で付け、逃げ場を奪う。
「そんなとこもすごく好きなんだけど」
耳のうちに注がれた甘ったるい音に血が沸く。
咥え込んだ壁が吸いつくように欲してだが、求めるのは一方のみで終わる。小刻みに震える体躯に抗うのは
「…ぁ…ッ…」
強烈な快楽に意識が焼き切れる。握り込んだ指先が痺れた。荒い呼吸を整えて、ようやくドランクへ意識を向けるとひどく嬉しそうに耳を振っているものだから思わず舌打ちが散った。
「……っおまえ、卑怯だ……!」
「えぇ〜スツルム殿だって言ってくれればいいじゃない、好きってぇ、僕、そんなこと言われたらすぐに出しちゃう〜」
「い、言うわけないだろ!」
負けた悔しさとたったその一言に反応した体に羞恥が沸いて眼光の鋭さが増す。
「じゃあ好きって言ってもらおうかな〜たまには言ってほしいしお願いそれでもいいけどぉ、あ〜でもやっぱり、言わせたんじゃ嬉しくないよね〜」
「……なんでもいいからさっさと決めろ」
投げやりな気持ちでそう吐き捨てた。どうせ碌なことではないので何でも同じである。
「何にしよっかな…あ、でもその前に……」
余韻に浮かされた体は簡単にドランクの下に転がされた。
「僕、まだだから……」
「ひ、…っ……!」
ずん、と半分ほど収まっていた性器が奥深くまで至り、腹を内側から押し上げた。
限界が近いのかぱんぱんに膨れて質量を伴ったそれが路を広げるように動き出す。
「や、っ…急に、う、動くな…っ……!」
「ん、ごめん、スツルム殿……僕もちょっと辛くって……」
達したばかりで鋭敏になった感覚では突き上げられる度に快楽が深まっていく。余裕のない動きのせいか揺れる青い髪から覗く滅多に揃うことのない両眼が鈍く煌めいてた。
「は、っ…スツルム殿……スツルム殿…」
耳に溶ける音すらスツルムにとって劇薬だった。享楽に沈んでいく意識に抗えたのはほんの数秒で言葉にならない声が喉を焼く。
腹の底に吐き出されたもの熱さだけがやけにはっきり感じられた。

 

 

 

「スツルム殿、脚閉じてたら見えないよ〜ちゃんと見せてよ」
「っ………」
両脚を躊躇いがちに左右に倒す。露わになった入り口に沈む指先をぎこちなく動かして、遠ざかる快楽を必死に追いかける。
「スツルム殿、指ちっちゃいね〜可愛いけどそんなので上手にできる〜?」
「ぁ、うるさい、黙ってろ……」
適当にかき混ぜているだけ。ひとりでしているところが見たいなんて言われたってやり方なんてわからなかった。だがその様をドランクの眼下に晒して、つぶさに瞳が捉えていると思うと勝手に柔らかな壁は指を締め付ける。中に吐かれた色が出し入れする度に溢れては混じり合った体液が指先に絡んで水音を響かせた。
微弱な快感が背筋まで這い上がっては消える。あとすこしが届かずもどかしさと羞恥だけが募っていく。
ドランクがいつも触れている箇所を思い出しながら胎内を探った。だが足りない。
ふと視線を上げた先にさっきまで含まされていたものがあった。張り詰めているものが再び入り込む想像に路が指に絡みつく。
「う、……ぁ……」
浮遊感が一瞬、視界が揺らぐ。どくどくと心臓の音がやけに近くで聞こえた。
「スツルム殿、ひとりでしたの初めて?」
下生えを撫でられて、びくりと体躯を震わせる。少しずつ降りていく手を掴んで骨が軋むほど力を込めれば悲鳴が上がった。
「も、もういいだろ!」
「いったい! ひどいよ、スツルム殿ったらあ、折れちゃうよ〜」
どうせ大袈裟に痛がっているだけだろう。全く萎える様子のないそれ、をちらりと見やって眉を顰める。
「もう一回勝負する〜? 僕、ここからでもいいよ? スツルム殿がひとりでしてるの見てたらすっごく興奮しちゃったし、すぐ出ちゃうかも〜」
すっかり元通り以上に勃ち上がったものが下腹部にあたって、焦燥を誤魔化すように擦り付けられ、先走りが肌を汚す。
「次、勝ったらここの初めても貰っちゃおっかな〜」
臀部を撫でた指が後ろの穴に触れた。怪訝を面に貼り付けて、ドランクを見やってからようやく理解が追いついた。
「な、この、変態ッ! 何考えてるんだ!」
「ええ〜普通のプレイだよ」
「絶対嘘だろ!」
「じゃあ、しない?」
「…………」
スツルムの顔を見て、ゆっくりと口角が上がるドランクを忌々しげに睨め付けた。

 

 


 息が詰まる。視界が白く弾けた。寝台とドランクの体に身動き出来ないように挟まれ、浅い所をずっと責めたてられている。さっきスツルム殿が上だったんだから次は僕が上でもいいよね、なんて丸め込まれてから一方的な行いになるまであっという間だった。
「スツルム殿〜今、イッたんじゃない〜?」
「違、…まだイッてないっ…あ…!」
一瞬、意識が飛んだだけに決まっている。
今にも水膜が決壊しそうな瞳で睨んで、だが深く突き立てられてその表情も簡単に崩れた。
「ホント〜? お腹の中、びくびくって震えてるよ〜? ほらあ、ここ」
腹を撫でた指がそのまま肌を押し込んだ。圧迫されはっきりと中で形が強調されて絡ませた両脚に力が入る。
だがそのまま腰を揺らしてドランクの射精を煽る余裕なんてもうなかった。
「あ、そこ、や……あっ、ああ…あああ……!」
仄白く眩む視界は金色に塗り変わって、重なる唇の感触すら遠い。
絡みつく舌先と腹の内側を抉る感覚は頭の中までかき混ぜているようで残る矜持だけがかろうじて理性を支えていた。また負けるなんていやだ。
悔しさに涙が目尻を伝う。そのまま睨め付けた先の笑みが不意に消えた。獣にも似た瞳のぎらつきを向けられ、ぞわりとして咥え込んだ部分が勝手に反応した。
「あッ……!?」
膝の上に抱き込まれて、突き上げられる。いつもより深い場所に何度も叩きつけられて、言葉にならない嬌声を縋りついた肩口に沈ませる。頭が真っ白になってもなお続く律動が快楽に溶けた体を追い詰めた。
何度目かわからない絶頂を迎えてようやく中に注ぎ込まれる感覚にか細く鳴きながらスツルムはただ身を震わせた。

 

 

 

 

「……スツルム殿ぉ〜拗ねてないでそろそろこっち向いてよ〜」
「……拗ねてない」
そんな子どもじみた態度をとっているわけがない。
 ただドランクの顔を見て昨夜のことを思い出すのが煩わしかった。敗北感を拭うにはその顔から一度でも余裕を奪うしかない。だが経験に差がありすぎる。剣であれば埋めるには練習すればいい。果たして同じように考えられるものなのだろうか。ドランクを見ていると一理ある気もするがスツルムの倫理観が許さなかった。
「……おまえみたいに誰とでも寝ればいいのか」
だからつい溢れた言葉はほんの意趣返しにすぎない。
 強引に体を引き寄せられて、顔の半分を広い掌が覆う。絡んだ視線が突き刺すように痛い。
「……本気で言ってるの?」
金色の瞳が鈍く揺らめいて、思わず息を詰めた。
しかし、同時に湧き上がる感情に手を振り払って語気を強める。
「お、まえだっていつも遊び歩いてただろっ!」
「今はしてないでしょ! スツルム殿だけってわかってるよね!?」
「……どうだか」
 時折、酒場で誘われているのをよく見る。スツルムの前では断っているがいないところでの行動まで知らない。過去の女癖の悪さを目の当たりにしているので不信感は募りに募っている。
大体、なにがいいんだ、こんな軽薄でへらへらしてるやつ。自身のことは棚に上げたスツルムは散々口の中で毒づく。苛々したまま布団に潜り込もうとして、だが腰に回った腕が行動を阻む。
「ね、冗談だよね、他の人と寝たりしないよね?」
徐々に拘束を強める囲いが苦しい。
「……離せ」
そんなこと一々確認しなくてもわかっていることだろう。わかっていて聞いているなら余計、鬱陶しい。
「……スツルム殿、スツルム殿ったら」
切羽詰まった声に面を上げれば、探るように双眸を覗き込まれる。
もしかして本当にわかっていないのだろうか。
あんな面倒で疲れること、こいつ以外とするわけないのに。
「……おまえと一緒にするな」
微かに滲んだ怒りを敏感に察したのかただでさえ落ちているドランクの目尻がさらに下がる。
不誠実なこのエルーンとは違いスツルムは疑われるような振る舞いをしたこともないのに発言一つでここまで疑念を向けられるのは心外である。すこし焦りを見せるくらいだと思っていたので本気にされて溜飲を下げるどころか余計苛立ちが積み重なっただけだった。
舌を打って、未だに阻む腕を強引に退ける。
出来た一人ぶんの隙間はドランクがまた距離を詰めたせいかすぐに埋まる。ただそれだけで背中の気配は数分静かでふと躊躇いがちに唇を開いては閉じる音が響いた。おずおずと腰に腕が絡む。
「……だってぇ、スツルム殿ったら負けず嫌いだし、鍛錬だって勝つためになんでもするじゃない……」
「それと違うくらいわかっている」
「でもぉ……」
「しつこい」
「…………ちょっとだけ不安になったの、
ごめんなさい。もう言わないから……」
肩に押し当てられた頭はかすかに重く、しかし、何だが退ける気もせず、無言でその髪をかき混ぜた。


2023年8月14日