どちらでも構わない話
よく二人のピアスは混ざっているらしい
騎空艇までの道、二人の少し後ろを歩く。魔物の大量発生という事態に丁度、島にいた二人に協力を得た帰路である。この後は報酬とは別に礼の意味を込めて、夕食をご馳走する予定だった。戦闘中も饒舌だったエルーンの男は今もその滑らかな唇で隣の相棒に延々と話しかけている。聞いているのかいないのか、スツルムは時折、相槌を挟み一言二言返事していた。5行に対して5文字程度だが律儀である。
間に入るのは何だか憚られるので距離を置いているのだが、一応内容は聞こえていた。他愛もない話。何処かの料理が美味しかっただとか、今日の魔物の生態だとか、後は先程のスツルムの戦いぶりをひたすら賞賛したり。
ふと歩みが止まる。どちらが止めたのかわからないが自然と自身も両脚を地面に置いた。
ドランクが屈む。目線がスツルムと平行になる。ドランクは無言であった。近い。そもそも普段から体が触れそうなくらい近いが目の前の二人はそれ以上で視線の置き場に惑った。
ドランクの指先が耳に沿う。近づいた顔が鼻先が触れる程の距離にどきりとした。
こんなところで何を。己の存在を忘れているのではないだろうか。焦燥はあ、と言う声で弾ける。
「やっぱり〜これ僕のピアスだよね?」
「別にどっちでもいいだろ」
「ええ〜でもお、僕のはスツルム殿が買ってくれたわけじゃない? だからそっちつけておきたいなあって」
「じゃあ最初から間違えるな。朝、まとめてたのをお前が先につけたせいだろ」
「ほら、あそこの食堂、すぐいっぱいになっちゃうじゃない? 寝坊して慌ててたからつい……」
「寝坊したのだっておまえのせいだし、大体、外さなければいいだろ、あたしのもお前が勝手に取るから混ざったんだ」
「だって耳元で鳴ってると気が散っちゃうし……スツルム殿もそうでしょう」
どうやら互いのピアスをつけ間違えていた故の行動らしいがいきなり見せられると心臓に悪い光景である。大体、口で伝えればいいのではないだろうか。呆れた眼差しの前でドランクは自分のピアスを外してから彼女の耳に付け直す。スツルムから外した一つは当然のように彼女の手に落ちる。
スツルムは手渡されたピアスと頭を差し出すドランクを交互に睨め付けて嘆息した。
頻繁にこんなやり取りを行なっているのではないだろうか、起こしているのではないだろうか。面倒そうにけれど慣れた手つきでピアスを付けるスツルムの姿を見てなんとなくそう思った。
「ありがとう、スツルム殿〜」
ピアスのついた耳を振って、破顔するドランクを一瞥してスツルムは足早に歩き出す。追いかけるドランクの背中を目にゆっくり足を動かした。
もし二人が飛空挺に泊まるなら同じ部屋に押し込んでしまおうと思った。一緒に寝ているみたいなので。
2023年8月14日