水着記念
スツルム殿水着おめでとう!記念 R-18
夏の日差しが透き通った海を照らしていた。
静かな波に揺られながら、時折、開かれる唇にスツルムが返事をして、時間が過ぎていく。砂浜の喧騒は遠い。浮き輪に跳ね返る水の音とドランクの声が混じり合っては消える。
そのまましばらくぷかぷかと海を漂っていた二人はすこし沖に向かったところで開いた岩場を見つけた。好奇心に押されたドランクが進行方向を勝手に変えて、そこへ近づく。海から上がったドランクは足をつけて辺りを見渡した。どうやら洞窟のようなものが形成されているらしい。進むと奥には小さな祠があった。
この海の神様でも祀られているのだろうか。
「なんだか不思議なとこだねえ……」
「…そうだな」
祠にドランクは歴史的、文化的興味はあるが祈りたいと思うことはない。だが今は別だった。つい両手を合わせる。
まさに丁度、神に感謝したい気持ちであった。スツルムと一緒にバカンスに来れたのだ。なんと有難いことだろう。
長い付きあいでもうとっても仲良しだとドランクは思っているけれどこれを機にもっと絆が深まったらなんて考える。
だが手を離した瞬間、不意に空気が変わった。
「っ、スツルム殿、離れて……!」
一瞬、感じた魔力はしかし、すぐに霧散する。
「……なんか、変な感じがしたんだけど…」
「……出るか。魔物でも潜んでいたらやっかいだ」
頷いて、二人は踵を返す。ドランクは一度だけ振り返り視線を向けたがぽつりとある祠は初め見た時と変わらずただ静かにそこへ佇んでいるだけであった。
何か、変だ。魔力が纏わりついている。気づいたのは昼食の時だった。
「おまえ、もういいのか」
「あ〜うん……」
屋台で選んだ夏らしい鮮やかな料理が卓上いっぱいに広がっていて、芳しい香りを漂わせているがとてもそんな気分にならなかった。食欲が完全に失せて別の感情が蔓延っている。
いつもなら惚れ惚れする食べっぷりのスツルムを眺めるのが楽しみだった。だが今、直視するのさえ辛い。
彼女を見ていると嫌に劣情を掻き立てられる。
開いては閉じる唇、覗く舌が艶めかしい。
首元から流れる汗が胸元を伝っていくのを食い入るように見つめてしまって、罪悪感に息が詰まる。
悪戯か何処かでかけられたそれは催淫系の力が働いているのだろう。体は熱く心臓が嫌な音を立てていた。
何とか解きたいが次々と浮かぶ不埒な情景に集中が乱れ上手く魔法が作動しない。触りたい。触りたい。触りたい。
奥底の、憧憬だけではないこの感情を自覚して薄らスツルムの気持ちも察しているけれど彼女が望まなければその線を越えようとは思わない。だがそのせいか普段意図的に排除している感覚はドランクには耐え難く余計引きずられそうになる。
強引に視線を剥がして、すこし遠くの女性を目に入れる。何も感じない。他の対象には全く作用していないのは幸いだが、このままでは休暇を楽しめない上、スツルムとの関係に亀裂すら入りかねない。
せっかくのバカンスなのに。ため息を押し込める。
部屋に戻って引きこもるのが一番だろう。そのうち効果は切れるだろうし体調が悪くなったと言えば深く追求されない。
でも彼女は優しいから、看病してくれる気がする。それは困る。長く傍にいられると理性的でいられる自信がない。寝台に引き摺り込む様が容易に想像できた。その続きもドランクの意志を無視して脳内で繰り広げられていく。
スツルムを極力、視界に入れるの避けたくて機械的に目で別の対象を追いながらどうしようかとぼんやり考える。思考の半分を彼女を押し倒して好き勝手している想像に侵食されていて非常に危険だ。水着姿だってただ可愛いとしか思わなかったのに今はドランクを煽る要因の一つでしかない。
「——ランク、おい、ドランク、聞いているのか?」
「…あ、え、ごめん、何、スツルム殿?」
彼女はとっくに食事を終えていた。ドランクの反応がなかったせいだろうか。ひどく機嫌が悪い。
「……もういい、一人でまわる。おまえはさっきから見てる女でも誘えばいいだろ」
「え! あ、違、待って、スツルム殿っ!」
席を立つスツルムを慌てて追いかける。このまま捨て置くと拗れる予感しかしない。
だが焦って腕を掴んでしまい失態を悟る。細い。肌の感触がやけにはっきりと指を伝った。
くらりと眩暈がした。反射的にかがみ込む。頭上からスツルムが心配する声が落ちてくる。
きっと反応がないのが不安だったのだろう、小さな指先が剥き出しの肩に触れた。
触らないで。そう言ったつもりでだが、言葉にならず、熱い吐息で喘ぐ。
耳元で名前を呼ばれた。それだけで心臓がひどく痛む。つい上げてしまった瞳が不安気な彼女の表情を捉えてしまってそこでドランクの意識は飛んだ。
水音が響く。
頭上に備え付けられたシャワーが目に入ってしかし、そこからは一雫だけ落ちて床を濡らすだけだけだった。何の音だろうか。徐々に戻る感覚。だが意識はふわふわとして明瞭ではない。
すごく気持ちがいい。さっきの苦しみが嘘みたいだった。手にある柔らかな感触を掴むとそれがさらに強まる。
「っ、あ……ぁ……う、…やあ……」
赤い色。スツルムの色が目前にある。髪だった。細い首筋にかかっている髪が揺れている。可愛いイルカのピアスも一緒にゆらゆらと。
揺れているのはドランクが腰を打ちつけているからで。
我に返った瞬間、何をしているのか理解する。
スツルムをシャワールームの壁に押し付けて、後ろから何度も何度も突き上げていた。
その度に繋がった部分からぐちぐちと音が響き、臀部と空に浮いた脚も無造作に揺れていた。
やめなければと思っているのに手が沈む感覚が堪らなく良くて水着ごと胸を掌が押し潰す。
欲を叩きつけている最中でありながら強烈な渇望は未だ薄まっていなかった。
赤く染まった耳が舐めたい。その首筋に歯を立てたい。全部全部中に注いで、薄い腹の下をいっぱいになるまで埋めてしまいたい。
生まれた願望を制御出来ず思うまま動いては、彼女から返ってくる反応に余計、劣情を募らせる。
奥に強く擦り付けた瞬間、か細い悲鳴と共に肉壁が痙攣した。腕の中で震える体を掻き抱いて堪らず精を吐き出す。
そのまま再び突きたくなる衝動を必死で抑えて抜くと一度や二度ではない量が溢れて腿を伝う。意識が飛んでいる間、何回付き合わせたのだろう。初めてだったかもしれないのに。
力の抜けた体躯を抱き寄せた。スツルム殿。ごめんね。顔を見てそう言うつもりだった。
「……っ、あ、ドランク……」
涙で潤み惚けた瞳がドランクを写し込んで思い出した理性を砕かせる。
気づけば再び壁に押しつけて今度は前から突き立てていた。小さな体ではそこは狭いはずなのに簡単に呑み込んでドランクのものをきつく締め付ける。強い快楽に促されるまま激しく中を抉ると泣きそうな顔でスツルムは首を振った。
「やっ、も、……動くな……やあ、あ、あっ……!」
ぞっと背筋を走り抜ける快感にそれがさらに膨らんで腹の内側を押し上げたのがわかった。
ふと短く喘ぐその唇に一度も口づけていないことに気づいたドランクはひどくそれが欲しくなって、噛み付くように塞いだ。
「…………ごめんなさい」
情けない声が向けられた背中に当たる。返事はない。
当然だと思った。シャワールームに連れ込んで無理矢理、だ。
怒っているくらいならいい。スツルムの溜飲が下がるならいくらでも殴られる。
だがいつまでも返答はなく、時計の針の音が響く度に絶望感が増していく。
耐えきれずおずおずとその顔を覗き込む。
だが想像していた怒りは見つからない。殺されても文句は言わない覚悟を決めていて拍子抜けしたドランクは瞳を瞬かせ、じっと彼女の双眸を追っては逸らされる。
「……おまえ、何か変だったから別にいい」
「……でも」
「………それより他になにか言うこと、…あるだろ」
柔らかい頬が彼女の瞳のような色になっている。
思い至るのは一瞬でぎゅうぎゅうと抱きついた後、スツルムの望んでいる言葉をドランクは喜んでその唇から吐き出した。
2023年8月14日