夏のドラスツ

夏のドラスツ

 

スツルム殿とバカンスを楽しみたいのでセッで疲れさせようと画策するドランクの話 R-18


 夏、スツルムを説き伏せて、長期休暇を作り向かった先は島全てがリゾート施設だった。
豊富な娯楽の中、一日目は砂浜が白くて透き通るような水面の海に行った。有名な観光スポットでもあるらしいそこは人が多くて照りつける太陽だけではなくその熱気で肌が焦げそうだった。
人混みにスツルムが時折埋まって一人だと思われたのか女の子に声をかけられたのも一度や二度ではない。
誘われちゃった〜なんて嬉しそうに振る舞いながらスツルムに一々報告しては無視され続けたので途中でやめた。虚しい。ちょっと期待したやきもちのやの字もなかった。あまりに不毛である。
 暑さは日が沈みきった今も変わらない。額から落ちる汗が頬を撫で首筋まで濡らした。荒い息を整えながら気怠げに体を起こして傍にあるコップを取る。水差しの中身はこの暑さですっかり温くなっていたがカラカラの喉には充分染みた。
「スツルム殿もお水飲む〜?」
返事の代わりに熱い吐息がその唇からは溢れ落ちた。達したばかりで快楽の余韻が抜けないのか未だ陶然とした顔に近づいて唇を合わせる。ゆっくり生温い水を含ませればこくり、と小さく彼女の喉が鳴る。
 最中、存分に重ね合わせたはずなのに離し難く惜しむよう唇を解放すれば飲みきれない分が口端から伝う。追いかけて舌先で掬えば彼女の体が微かに震えた。ドランクの下にある汗ばんだ肌には歯の痕と赤い色がいくつも散っていてひどく艶やかに見える。再び乾き始めた喉をもう一度、水で潤す。
「ね、もう一口いる?」
そう問えばドランクの行動を察したのか嫌そうに顔が顰められた。
「ッ……かせ、ふつうにのませろ」
掠れた音に先ほどまで甘くあげていた声をつい彷彿してしまう。普段、鋭く光る瞳も今はあまり覇気がない。
「でもスツルム殿、コップもてないでしょ〜」
「誰のせいで……」
「ごめんねぇ、僕のせいだよね〜」
悪びれる気もなく、へらへらと笑って謝ったのが癇に障ったのか体に鋭い痛みが走る。振りかぶられたばかりの手首をさらって指を絡ませた。諦めたよう弛緩する身体に身を寄せて口づけを再び落とす。
 だが水を分け与えるために唇を合わせていたはずなのに生温い感触が脳を溶かして段々、それ以外の意図を伴って舌が動く。それに気づいたのか、逃げ出そうとする体を強く敷布に押しつけて深く貪った。夜といえど夏の空気を溜め込んだ室内は茹だるように暑い。けれどこのままひっついていたい。一度や二度で終えたわけでもないのにすでに気分は高揚して、血液が半身に集中する。
唾液を絡ませながら舌を吸ってゆっくり唇を離す。
息苦しかったのか目頭に涙を溜め込むスツルムに表情はだらしなく緩んでしまう。
「ちょっと苦しかったかな、スツルム殿の涙目可愛い〜」
「……だまれ」
緩慢な動作で顔を隠すようにうつ伏せになる彼女へと覆い被さって首筋から耳朶まで舐めた。美味しくもない汗の味にうっとりとした。甘いわけなんてないのに飴玉を舐めている気分になる。昂らせるには充分ですでに張り詰めたそこは痛みすら訴えていた。臀部を持ち上げると先ほど吐き出したばかりの精液が腿を伝っていく。濡れる入り口にあてがえば、逃げるように腰が動いた。
「っん、や……、おい、散々しただろ……!」
「まだまだ夜は長いんだから、もうちょっと楽しもうよ、ね?」
か細い声と共に彼女の歯と指先が食い込んだ敷布が波打つ。小さな体を貫く瞬間はいつも仄かな罪悪感に高揚する。
奥にあたる感覚に熱い息をついた。ゆるゆると腰を振るう度に思考は溶けて暑さと同化していくようだと思った。
「ん、ぁ……んんっ……ふ……!」
肉の擦れる響きと共に繊維を引き裂く音がする。指先が白むほど握りしめ、声を堪えるために目前のシーツをスツルムは噛み締めているのだろう。
 背中に唇を寄せればココナッツの香りがふわりと漂う。ドランクと同じ日焼け止めの匂いがまだ染み付いている。バカンスというより鍛錬に夢中なスツルムは明日も海に行くだろう。面倒くさがる彼女の代わりに日焼け止めを塗りたくるのはドランクの役目だ。
 勿体ないがこの幾つもの赤い痕は消すしかない。一つくらい残しておいてもいいだろうか。白い肌とうっすら焼けて桃色の境界にある見えるか見えないかぎりぎりの位置。夏の海はいつもより人は浮き足立つのかすこし目を離した間にスツルムも声をかけられていた。ドランクが似合うよう選んだ水着は当然彼女にぴったりでいつも以上に可愛かったけれど空腹のせいか仏頂面で睨みを効かせるスツルムを誘う輩がいるなんて思わなかったのだ。喧嘩を売られたのと勘違いしたスツルムが剣を抜きかけているのを止めるのも大変だった。
 ふと擡げてくる考えに心が揺れた。
思い切り疲れさせてしまえば明日は景色の良い所を散策したりのんびり過ごせるのではないだろうか。少なくとも鍛錬する気はなくなるかもしれない。
 そういう日が一日くらいあってもいいんじゃないか。今日だって鍛錬ばっかりで全然ドランクに構ってくれなかった。彼女が剣を振るったり体を鍛えている姿を見るのは嫌いじゃないけれどせっかく遊びにきたのにいつもと変わらない気がする。あまつさえいても邪魔だからと追い払われそうになった。スツルムを眺めているだけのドランクに気を遣ってくれたのかもしれないがあんまりだ。
「ッ、ドランク……」
苦しげな声色を耳にして我に返った。焦らすつもりはなかったけれど疎かな動きがスツルムには耐え難かったらしい。
「あ、ごめんねぇ〜スツルム殿、わざとじゃないの。イきそう? こっちの方が良いよね〜?」
箇所を変えて擦り付けると肉壁が痙攣して吸い付いてくる。
思わず動きを止めて這い上がる快楽に身を委ねながらも我慢する。彼女は律儀だからドランクが達するまで付き合ってくれるだろう。明日のためにまだまだ長引かせたい考えのドランクはスツルムの弱いところばかりせめたてながらも吐精を先延ばしにする。
「ぁ、っおまえ、まだイかないのか……!」
怒鳴られたのは顔が見たくなって格好を真正面に変えた時だった。すでに何回目かわからないくらいスツルムは気をやっていて、真っ赤な顔は涙と快楽でぐちゃぐちゃだ。
「ううん、もうちょっとかなあ〜」
「ん、やあっ……も、さっさとおわらせろ……」
「うん、あとちょっとだけ頑張ってスツルム殿」
心ない謝罪を口に表情だけは申し訳無さげに模りながら額に口づけを落とす。
何度も達したせいかすっかり惚けた体は柔らかい膨らみを撫でるだけで快楽を覚え中は射精を誘うように震えた。
その心地良い感覚にずっと浸っていたいがあまりしつこいと後で睨まれる。
自身の快楽だけを追って動きに激しさを加えた。
スツルムはもう声を殺す気力もないようで掠れ切った甘い声色が興奮を掻き立てる。
ぴったりと全部埋め込んで奥に押し付けたまま収縮する中に促されるよう吐き出す。
その体をかき抱きながら強烈な快楽に大きく息をついた。
「スツルム殿、中に出されるの好きだよねぇ〜気持ち良さそうにしちゃってさ〜」
「っ……うるさい、さっさとぬけ」
肩を押されるが虫が触れたくらいのささやかさに笑みが溢れる。そっとその手を包んで、敷布に押し付けた。
「えぇ〜、スツルム殿は何回も気持ちよくなってるのに僕は一回だけって不公平じゃない?」
「さっきもしただろ……!」
「でもぉ〜まだおさまりがつかないし……」
「……ひとりでやってろ」
腰を引いて抜く素振りをすると彼女の力が抜けた。普段、油断なんかしないのになあなんて信頼を噛み締めながらもその瞬間に深く押し込んで、撫でるように奥を抉る。
「な、ドランク、…うあ……あ、っ……あ、あ……!」
何度もスツルムの絶頂寸前で止めるのを繰り返して、様子を伺う。睨んでいたのは最初だけ。すっかり下がった眉に口元が緩んだ。
「後一回だけだから……ね、いいでしょ、スツルム殿〜?」

 

 

 やりすぎた。たがが外れたのはどの瞬間だっただろうか。小さな手が縋り付いてきた時か。名前を必死で呼ばれた時か。それとも珍しく口づけを強請られた時だろうか。
しかしどれも可愛いかったなんて回想している場合ではない。体の自由が効かないことに苛立つスツルムの機嫌は落ちるところまで落ちている。起きてから刺されることもなく無視され続けてようやく飯、の一言だけ聞き出したドランクは店を駆けずり回って彼女の好きそうなものを探していた。
 寝台に腰掛ける彼女に夏らしい鮮やかな青色のジュースだとかスライスされた肉の皿や海産物の丼を運ぶ。先ほど持ってきたフルーツの山は姿を消していた。食欲があることにほっとしながら彼女の隣に腰を下ろす。おずおずと横目で彼女を伺って様子を確認する。顔色はいい。が機嫌はわからない。
「まだ何か食べる〜? 買ってくるけど」
「……もういい、充分だ」
返答するだけ彼女の機嫌も良くなったらしい。丼に目を輝かせていたから美味しい料理を作った人間に感謝するしかない。
「……おまえいつまでいるんだ、何処か行かないのか」
安堵したのも束の間である。どうやらドランクへの怒りは解けていないようだった。これは遠回しに部屋を出て行けと言われているのではないだろうか。
余計なことを画策したせいだが二人で休暇を過ごせると考えていた分、さらに気落ちする。
「僕と一緒にいるの嫌、かなあ?」
思わず情けない声が落ちた。それを怪訝そうに見返される。
「……誰かと遊びに行くんじゃないのか、誘われてるって言ってただろ」
 瞳を瞬いた。もしかして昨日、何度かそんなことを口にしたせいだろうか。彼女を置いて他の相手と過ごす気は毛頭もなかったけれどスツルムはそう思わなかったらしい。
「あれはその……スツルム殿にやきもちやいてほしかったの。全部断ってるよ」
脇腹の痛みと共に舌打ちが散った。
「……くだらないことするな、馬鹿」
突き放すような口調とは裏腹に機嫌が良くなったように見えるのは気のせいだろうか。
「……ね、明日行くとこ決めようよ、こことか良いんじゃない? 屋台がいっぱい並んでてお祭りみたいだよ」
「……別にどこでも良い」
「うん、僕もスツルム殿と一緒ならどこでも良いけどせっかくなんだから楽しいことしたいじゃない」
広げた雑誌を身を寄せて一緒に眺める。独特の音が耳を打つ。窓の外、夜に変わりかける空に花火が咲いていた。

 


2021年8月9日