うそつき

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初セッの時恥ずかしくて強がってしまうスツルム殿の話 R-18


 音が響くほど強く噛み締められた歯に動きを止めた。
「……大丈夫、スツルム殿?」
胸元に埋めていた顔を上げて彼女の様子を伺う。仇を睨むかのような目つきは情交最中の相手を見る表情ではない。
「大丈夫だからさっさとしろ……!」
困ったように笑ったドランクは言葉にもならぬ声で曖昧に返答した。
 まだ指一本も入りきらない。探り探り至る所へ唇で刺激を与えながら入り口を指先でゆっくりと広げて、ようやくすこし濡れてきたくらいなのにこんなところに埋め込んだら当然、痛いに決まっている。何も大丈夫じゃない。合意を得るまでの紆余曲折、ようやく転がり込んできた機会である。これっきりなんて嫌だ。次、にも繋げたいし何より苦しい思いなんてさせたくない。
「スツルム殿が大丈夫って言ってもこれじゃあ入らないよ〜初めてでしょう?」
「べ、別に初めてじゃない…!」
一瞬、どきりとしたが嘘なのは明白だった。わかりやすくばつの悪そうな表情をして視線が逸れる。負けず嫌いな彼女はきっと自身だけが余裕がないのが腹立たしいとでも思っているのだ。だがそんな顔するくらいなら意地なんてはらなければいいのに。可愛いけど。ドランクだって緊張していないわけじゃない。だが石のようにガチガチなスツルムを見ているとそんな場合ではないと奮い立って余裕を誂えているだけだ。だからいつもの調子を崩さないように軽い言葉を連ねる。
「そっか、そっかあ〜スツルム殿、初めてじゃないんだ〜? じゃあ、あんまり手加減しなくていいかなあ?」
下腹部にすっかり張り詰めたそれ、を乗せる。彼女の肩が震えて、視線が動かなくなった。
平均より少し大きいものが臍付近まである。解しても奥まで入らない事実どころか、半分までいくかどうか不安な気持ちがドランクの中で余計際立った。横も狭いのに今のままでは先端を含ませるのすら厳しいだろう。
それがスツルムにもよくわかったはずでぐ、と息を呑むのが聞こえた。その隙に脚の合間に顔を埋める。遅れてスツルムはドランクの行いを察したのか両手で頭を押さえにくる。痛い。
「な、何考えてるんだ、おまえ! ばか、やめろっ!」
「ええ、これくらい普通だよ〜スツルム殿も知ってるよね? 初めてじゃないんだもんね?」
発言してしまった手前、彼女は反論に窮し黙した。すこし力が弱まった瞬間に唇をそこにつける。びくりと小さく体が跳ねた。
奥歯を噛む音は舌先を伸ばすと上擦った声色に変わっていく。指と舌で解していけば頭を押していた力がだんだんと抜ける。
「っ、…う、ぁ……やっ……」
二本目が収まって、抵抗が指先を添える程度にまでなった所で顔を上げると涙目の彼女がドランクを睨んでいた。初めてみる表情、きっと誰も知らない顔に優越感が胸を満たして、けれどそんなこと露ほど知らないスツルムは深くまで埋まった指に一々新鮮な反応を曝け出す。
血が下に溜まっていく感覚に耐え、動揺を悟らせないよう笑みを浮かべて見せる。
「いれるね、スツルム殿、力抜いてて」
返事の代わりに唇に緩く歯をあてがって彼女は首を縦に倒す。
ゆっくりと先端を含ませてから一気に押し入る。
「いっ……ぁ……!」
押し殺した悲鳴を聞く。きつい。が強烈な快感が理性を焼き切ろうとする。一度抜こうとして腰を掴む。
 両手で回りそうなくらい細い腰だった。強く掴むと折れそうで怖くてしかし気がつけば押さえつけて欲を叩きつけていた。
 我に返ったのは精を吐き出した後だ。
目前にあるのは痛みを耐えているのか涙目で歯を食いしばっているスツルムの姿だった。その表情は嗜虐心を煽り罪悪感を塗りつぶしていく。痛がっているのに興奮するなんて最悪だ。けれどドランクのために収まり切らないそれを我慢して受け入れてくれる姿を見ていると堪らなくなる。ゆっくりと引き抜くと引きずられるように白い体液が溢れだす。溶けた赤い色がやけに映えて、どくどくと心臓を鼓動が叩く。
「っ、ごめん、スツルム殿、痛かったでしょ」
再び押し込みたくなる衝動を抑え込んで彼女の汗ごと頬に張り付いた髪を払う。
「……別に、これくらい…」
「……でも唇も切れてるし……」
指で触れて治していく。そのまま目元を拭うと鋭く視線が突き刺さる。ぞわぞわする。さっきまで惚けた表情だって晒していたのに何でもないように強がっている。
このまま見ているとまた下腹部が重くなりそうでおもむろに目先を変えたが失敗だった。
引き締まった身体、にドランクが散らした鬱血痕が幾つも在る。
おい、と呼ばれて我に返った。
「な、なあに、スツルム殿〜?」
「……もういいのか」
「あ、…うん…」
普段滑りの良い唇がつくにはあまりに粗末な嘘だった。胡乱な視線の先には起立したままのものがある。
「……別にもう一回くらい……大丈夫だ」
「え、ほんと? でも疲れたんじゃない? それに血も出てるし……」
「だ、大丈夫だって言ってるだろ! これくらいなんでもない、さっさとしろ!」
何となくスツルムが意地になっているのはわかっていたが、好きな女の子を前に差し出されたあまりにも魅力的な提案を一蹴できるほどドランクは理性的ではいられなかった。

 

 

 

 

 そうだねえ、主導権を握りたかったらそう言って、まあ後は上にでも乗ってやればいいんじゃないか。ちょっと手慣れてる方が男は好きだからねえ。
 何故ドナとこんな話になったのか、あまりよく覚えていない。何となく最中思い出しただけでけれど別にスツルムだってそんな嘘、吐くつもりもなかった。
ドランクがあまりにも平常心でスツルムと違って緊張した素振りもないものだからつい口にしてしまっただけだ。
 確かにそう言った途端、余裕ぶったドランクの表情が乱れた。スツルムの溜飲は下がった。
だがほんの一瞬のことだ。
その後からずっと一方的だった。
彼女にとって未知のことばかりなのに、何をどうすればいいのかドランクは知り尽くしていて、到底、太刀うちできるものではなかった。それでもまだ痛みがあるだけはっきりと自我を保てた。
 二度目、をどうして許してしまったのだろうか。ドランクがスツルムを過分に心配するから何だか癪に触ったのである。
大したことじゃない、大丈夫だと思ったのだ。一回目だってこなせた。もう一回くらい。なんてことないはずだと。
後悔している。
 色々な箇所を舐められて弄られて、出し入れされる度に初めあった痛みは何か別の感覚に追いやられている。ぞわりと忍び寄り昇っては意識が弾けそうになって、けれど最後まで至らずもどかしいようなそれにさっきから翻弄され続けていた。
ぐ、と奥を突き上げられて、視界が眩む。それに連なって嬌声が勝手に唇を割る。
「ん、大丈夫、スツルム殿?」
彼女の顔を覗き込みながらもドランクのものがぐりぐりと最奥を抉る。また同じ感覚。意識が飛びそうになって、回した腕に力を込めた。
「ここがイイ? もう痛くない? 気持ちいい?」
返事をしつこく強請るものだからうるさいと一蹴するつもりだったが、言葉は重ねられた唇に飲み込まれる。
呼吸すら奪おうとするその口づけは苦しいはずなのに、そのまま揺さぶられるとぼんやりとして、ずっと浸っていたくなる。
散々咥内を蹂躙されようやく離された唇から止めようがない嬌声が溢れた。羞恥で涙が滲む。
「まっ、ん…や、ドランク……」
「どうしたの、スツルム殿? 痛い?」
つい肩口を手で強く押し上げると動きが止まった。は、と短い音が喉を鳴らす。
「ごめんね、一回、抜こっか?」
違う。それより、もっと。
ふと思ってしまったことに歯噛みした。ドランクはゆっくり腰を引く。だが中途半端に高められ、腹の奥に残る甘い感覚が焦燥を掻き立てる。気がつけば腰に脚を絡ませて引き止めていた。
「……べ、別にいい。痛くないからお前の好きにしろ…!」
思わずそう言ってしまったのは大事にされている気恥ずかしさと手加減されている故の一抹の悔しさだった。
「……あんまりそういうこと言っちゃダメだよ」
嘆息混じりに耳へ低い声色が落ちる。
そこからあまり思い出したくない。
 ただ最中、必死に何度も好きだと言われるのは悪くはない気分だった。


2023年8月14日