結婚式

結婚式

 

スツルム殿と一緒に結婚式を見ていたドランクがスツルム殿に結婚したいか聞く話


 並ぶ純白の二人は幸福そうだった。投げられた花束が曲線を描いて人の手に渡る。歓声が辺りを彩って、さざなみのように広がっていく。
「みんなに祝福されてていい結婚式だね〜」
次の街にむかう途中、立ち寄ったそこで行われた結婚式は華やかなで村全体お祭りのようだった。一日の滞在ついでに村長から誘われて結婚式に出席した二人は、花嫁たちと変わらない距離で身を寄せてその様子を眺めていた。
「……ねえねえ、スツルム殿は結婚式、したい?」
純白のドレスはきっと彼女に似合うだろう。白無垢でもいい。
できれば隣で、なんて思ったが彼女は結婚おろか色恋沙汰自体自身の人生に勘定していないに違いない。
仕事一筋、隣にいる相棒の感情にすら疎い。毎日わかりやすく示してるのに気づいてくれない。鈍感だ。そんなところも可愛いけど。だから別に興味ない、だとか一蹴されるつもりだった。
「そうだな、家族だけでしたい」
瞳を瞬かせる。聞き間違えるにしてはドランクは耳が良すぎたし距離が近すぎた。したい。したいんだ。へえ、だとか気の抜けた返事が溢れた。
結婚式がしたい。結婚したい。伴侶がほしい。相手を探す気があるということだ。困る。安心するつもりで聞いたのに急速に不安へと叩き落とされた。興味がなければこれまで通りドランクと一緒にいてくれる。そう確信できたのに。別に想いが届かなくても傍で彼女といられればドランクは充分幸せなのだ。聞くんじゃなかった。指先が冷えていく。すぐ傍、の彼女の顔が見られない。どうしよう。夢見るようにその双眸が輝いていたら絶望する。そんなの彼女に似つかわしくない。違う。ドランクが隣にいない未来を想像するスツルムをドランクは見たくないだけだった。
「……い、いつまでにしたいとかあるの」
「なるべく早くした方がいいだろ。こどものこともある」
彼女はどうやら子どもも産む気らしい。羨ましい。妬ましい。それを手に入れられる相手は誰だ。
「ぼ…」
僕じゃダメなの。
 言えなかった。だって言っても意味がない。いつもすべらかな唇は重く言葉は喉元に詰まる。苦しい。
スツルムは色恋沙汰に興味がないのではなくドランクに興味がないのだ。結婚相手を欲しているのにドランクは眼中にない。伝わらない好意に証明されている。胸が軋む。あれほど美しいものだったはずなのに目前にある眩しさが突き刺さった。

 

 

 

 

 ドランクはそれどころではなかったので気づかずにいたがスツルムの頬に集まった熱は引かないままで言わなくていい事まで口にしてしまっていた。こどもなんて気が早すぎた。でも五人くらい産むなら早すぎるということはない。スツルムを産んだ時、母はもっと若かっただろう。
 だがいきなりプロポーズなんて何を考えているんだこいつは。
せめて二人きりの時に話すべきではないかと思った。こんな周りに人が大勢いるところでしなくてもいいだろう。目の前で行われるおめでたい騒ぎの中では誰も二人の話を聞いていそうにないが気が気ではなかった。
大体いつもそうだ。何時でも何処でも明け透けにスツルムへ好意を示してくる。
強情な彼女はそんな風になれないから応えるのはこれが最初で最後かもしれない。
「……とりあえずおまえを会わせないと。予定空けておけよ」
結婚相手を連れて行くと家族に手紙を書かなければならない。そういえば母が着ていたらしい花嫁衣装は何処にしまい込んだだろうか。家、もあったほうがいい。貯金は持つか。すこし仕事を増やして。
考えこむスツルムはもう相手が…だとかひどく無感情な声が隣で呟かれたことに気づかなかった。


2022年7月14日