メープルシロップ砂糖がけ
初めてする話 R-18
「ねえ、かっこいいお兄さん、良かったら一緒に飲まない?」
「かっこいいだなんて嬉しいなあ、でもごめんねえ、僕、連れがいるんだ〜また今度誘ってね」
作り慣れた微笑を模りながら、角が立たないように優しく言葉を吐いた。残念そうな顔にひらひらと手を振って左へ向き直る。先ほどから彼女の杯はドランクがスツルムに向かって口にする語と比例するように重ねられていて、琥珀色の液体が水を飲むように消えていく。
「スツルム殿ぉ、ちょっと飲み過ぎじゃない?」
「いつもと変わらないだろ」
そう言って、また一口煽る隣の彼女の一瞥はどことなく冷たい。何となく思い当たる節に勝手に口元が緩んだ。
「また、なんてないんだからあ、そんなに怒らないでよ〜ねっ?」
「怒ってない! 勝手なこと言うな!」
蹴られた小さな痛みに大げさに騒げば、鬱陶しそうに睨まれた。すぐに逸らされた瞳はしかし、時間が経っても鋭く態度も頑ななままである。
寡黙で表情が乏しいこともあるがこういった彼女のわかりやすい部分は存外に幾つもあって、それをいちばん知っているのはきっとドランクでこっそり小さな優越感を抱いている。その中でもやきもちやきなのもかわいい。ドランクが女の子と仲良くしているのを見て、むっとする表情を隠そうとして全く隠せていないのだ。口にすると刺されるどころでは済まないので黙しているけれど。
隣に視線をちらちら送りながら、酒を口元に運ぶが彼女は未だにご機嫌斜めのようだ。一向にこちらを見てくれない。いつまでも引き摺る性格でもないので明日にはすっかり元通りだろう。けれどそれまでずっと相手にされないのはすこし寂しいので彼女が興味を持ちそうな話題に切り替える。徐々に彼女の意識が向き始めてほっとした。
客もまばらになってきた頃、赤い顔をしたスツルムは手洗いだろうか、その背丈には高すぎるスツールから飛び降りて、奥の扉に消える。
わかりやすいスツルムの嫉妬。唇を尖らせていた彼女を思い返しながら、甘い酒を口にしていれば膝に重みを感じた。下ろした視線の先には見慣れた小さな指、が腿に食い込んでいる。そのまま力を込めてよじ登ってきたスツルムはまるで先ほどまで座っていた場所のようにそこへ腰を落ち着ける。
「スツルム殿〜? ここ僕が座ってるんだけど……」
何がおかしいのかと彼女は不服そうに首を傾げる。
ドランクの脚の上に収まる彼女はもしかしてではなく、確実に酔っ払っている。明らかに届かないのに短い腕を伸ばし、自身のグラスを取ろうとして空を切る掌は正常とは思えなかった。可愛い、なんて思いながら水を注文する。膝からは、下さなくていいだろう。こんな良い機会滅多にない。
「もお、酔ってるでしょ〜やっぱり飲み過ぎだよ、スツルム殿ったら……」
「酔ってない……、おい、それ、よこせ」
頼んだ水は脇に置かれてしまう。代わりにドランク持つ手ごとグラスを引き寄せて口元に運ぶ彼女は、一口舐めて眉を潜めた。
「……甘すぎる」
「そう? 僕は結構好きなんだけど……」
グラスに入った紫色の果実酒は、あまり甘い酒を好まない彼女の口には合わないだろう。突き返されたグラスを煽りながら卓上に乗る塩気のある料理に手を伸ばす。摘んでいればふと彼女の視線を感じた。
「スツルム殿も食べる?」
口元へ運べば素直に唇が開かれる。ドランクの手から彼女に咀嚼されていく様が可愛いくて、幾つでも与えたくなる。
「はい、これで最後だよ〜」
皿に残る一つを差し出して、引っ込めようとした寸前。
唇が指先に触れた。不意に与えられる柔らかな舌の感触にぞっとする。指についたかけらをすくっているのかもしれない。けれどそれにしては随分と長くて、まるで前戯じみた艶やかさを目の当たりにしているようだった。
「ちょ、ちょっとぉ、スツルム殿、それ僕の指だからね! 食べられないよ!?」
噛みちぎられる心配より掠めた劣情を誤魔化すように冗談めいた口調で笑う。手を引こうにも彼女の怪力が許してくれず、熱い舌が這い回る生温い感覚がひどく落ち着かなくさせた。
「す、スツルム殿、もうお部屋戻ろっか?」
普段ならこんな媚態じみたことするはずがない。もっと早く止めればよかった。スツルムは相当、酩酊している。ごねられたらどうしようかと不安が過ぎったが、存外、彼女は素直に頷いて、けれどドランクの膝の上から降りようとはしなかった。そのまま首に巻きついてくる腕に、思わず細い腰を抱く。首筋に埋められた頭から香る彼女の匂いにあてられて目眩がする。燃えつく火のような匂いは、よく知っているはずなのにやけに胸を騒がせる。
懐から取り出す代金を数える余裕もなく、適当に紙幣を置いて、釣りも受け取らずドランクはその場を辞した。
どうしてもあたる柔らかな感触を意識しないように抱き上げスツルムを店の上階に取ってある部屋まで運ぶのは想像していたよりも苦行であった。焼き尽きそうになる理性を制しながら光を灯して二つある寝台の一方へ腰をおろした。何でもないような表情を誂えるのは慣れている。
「スツルム殿、ベッド着いたよ〜」
緩慢な動作ながらも首元から外れていく腕にほっとして、しかし、強い力で引き寄せられる。傾ぐ体は、寸でのところで柔らかな敷布に腕をつき支える。彼女を潰さずに済んだと安堵したのは一瞬である。眼前に赤い赤い瞳があった。近い。まるで押し倒しているかのような格好に息を詰める。
「も、もお、スツルム殿ったらあ、びっくりするでしょ〜悪戯しないでよ」
平静を装いながらゆるゆると半身を正して、スツルムから距離を取った。それでも仄かな灯りに照らされた寝台に横たわり、望めば触れられる体躯はひどく蠱惑的でさりげなく視線を落とす。
「ほんと飲み過ぎなんだから……」
「ドランク」
その名前はとても甘く聞こえた。気のせいだと言い聞かせる。いつも呼ばれる声色となんら変わらないはずだ。服を掴む小さな指。上気した頬はきっと酒のせいで、他意なんて彼女にあるはずがなかった。
何か期待するようなその表情は目に毒なのにどうしても瞳を逸らせない。無意識に伸ばしていた手を止めた。触れたら取り返しがつかない気がした。強固な理性を自負しているが、彼女相手だとそれは簡単に崩れ去るのを知っている。
あの日、何かきっかけがあったわけではなかった。
大抵、ドランクが風呂から上がってくる頃にはスツルムは眠っていて、その日は偶々、剣の手入れが伸びたのか彼女が起きていただけだった。珍しい状況に喜んだドランクはまだ彼女に相手をして貰えると剣を磨くスツルムの隣に座って、いつもみたいに他愛もない話を始める。時折、打たれる相槌がふと止まったのは手入れが終わったからだろう。つられて言葉を噤んだドランクの視線はふと彼女の顔に吸い込まれる。赤い瞳、があまりに綺麗で心の臓がざわめく。ドランクはいつも彼女を格好良くて素敵で眩しかったけれどその日はとても可愛いと思ってしまった。
ねる、とその唇は模ったのかもしれない。鼻先が触れるほどに顔を近づけたので確かなことはわからなかった。頬を掌が触れる。手だけで顔の半分埋まってしまうくらい小さい。ドランクを写し込むその色はやっぱり綺麗でその瞳にずっと写っていたいと思う。
いい?と聞くと好きにしろ、と言われたから、その唇を同じもので塞いだ。彼女に初めて口づけたわけでもないのに何故かひどく緊張した。
そのあとも何度も問いた。柔らかな寝台に押しつける時も、もう一度その唇に口付ける時も、肌に触れる時も。その度に怒ったように彼女は肯定する。きっと恥ずかしいだけで本当に怒りなんてないのはわかっている。
一糸纏わぬ肢体はどこもドランクよりずっと小さく、組み敷いていることにふと罪悪感がわいた。
きっと彼女は初めてなのだろう。探った入り口は狭くて、指の先端がすこし入るくらいであった。
視線を下ろした先には恐らく平均的だろうと思われるそれが張り詰めていて、しかし彼女の臍を超えた辺りまで触れていた。絶対に入らない。ドランクは興奮も冷め切り青ざめた。
その様を目の当たりにして冷静さを取り戻したはずで、しかし。スツルムの声を耳が拾う。中を広げようとして動かした指に反応したのだろう。痛みに呻く声色ならよかったのかもしれない。だが、それは甘さを含んでいて、全身を沸騰させた。ぞっとして、思考が鈍る。彼女は必死に唇を閉ざしているが堪えきれていない。その顔が余計、劣情を煽った。止めようと思っているはずで、だが、脳髄を溶かすようなその声が聞きたくて中を探る指先は、彼女の快楽を引き出そうといつまでも動いたままだ。くぐもった嬌声が小さな唇を震わせる。薄く色づく頬。ひどい怪我を負った時ですら泣かない彼女の双眸には涙が滲んでいた。
上手く呼吸ができない気がした。
頭では理解しているのに、本能的に理性が瓦解しそうになった。挿れたい。無理だ。背筋を嫌な汗が伝う。
奥歯を強く噛み締めた。想像する。例えば彼女に嫌いだとか別れるとか言われる場面を。冷めた視線を最後に関係を切られ去っていく背中まで考えて明らかにそれは萎えた。
必死に余裕を装って、汗が浮かぶ額に唇を落とす。笑いたくなくても笑みを飾るのは得意だった。
「今日はここまでにしよっか? スツルム殿、初めてだし疲れたでしょ」
「……別に、問題ない、続けろ」
「ダメだよ〜こういうのは無理して続けるものじゃないし」
頭を撫でて、彼女の体をシーツで包んだ。臆病な自身の都合を彼女に押し付けてしまって吐き気がする。
あれから日は過ぎ続けているが一度もその続きをしていない。次、同じ状況に陥って、理性を保つ自信がドランクにはなかった。強引に事を進めて嫌われる想像しか浮かばない。情けなくも怖気ついたのである。
思い出して彼女を抱きたい欲求より恐怖が勝る。
「スツルム殿、どうしたの〜? あ、お水欲しいんでしょ、ちょっと待ってて、持ってくるからね」
かかる指をそっと外してドランクは寝台から急いで離れた。
見境なく手を出しているはずの男は思ったより誠実であるのかもしれない。酔っ払いには手を出さないのだから。そう考えて脳裏を掠めた食指が動かなかった可能性を強引に排除する。あの続き、はいつになったらするんだ。そう言えるほど素直であれば、こんな回りくどい方法に頼らなかった。酒に酔ったふりをして誘うなんて。
隣の寝台にはいつのまにか戻ってきたドランクの姿があった。昨夜、彼女に水を渡して飲み直してくると、部屋を出ていった記憶がある。あの程度の酒量で酩酊するはずもなく、意識は明瞭だった。むしろ忘れたいくらい馬鹿な振る舞いをした。だが、誘うなんて真似、真っ向からできるはずがなかった。失敗したことが余計、ばつが悪く柔く唇を噛んで込み上げてくる羞恥を押しつぶす。
寝台から降りて、浴室に向かった。温い湯で頭を覚まして、身支度を整える。
部屋に戻ってくるとドランクが頭を押さえながら起き上がっていた。
「うぇ……頭痛い……スツルム殿は大丈夫なの〜」
「……別に。特に問題はない」
「えぇ〜あんなに飲んでたのに……」
「おまえはそんなに強くないのに飲むからだろ、しかも甘いのばっかり……あたしが飲んだあの果実酒、結構きつい酒だったぞ」
「だってぇ、甘いの好きなんだもん〜スツルム殿だって昨日酔っ払って……」
ふと言葉を切ったドランクは金色の瞳でスツルムを捉える。二日酔いの頭痛など忘れたようにドランクは寝台から真っ直ぐに彼女へと向かってきて、その体をいきなり抱き上げるものだからスツルムは大きく目を見開いた。
「な、おまえ、……おろせ!」
「スツルム殿、昨日のこと覚えてるの?」
失言を悟ったのは一瞬で、しかしスツルムには目の前の男のように口が回るわけではない。
「お、覚えてないっ!」
結局、否定を吠えるしかなかった。自身でもあまりにお粗末な逃げ方だとわかった。当然、聡い男に見抜かれないわけもなくその緩んだ顔に舌打ちする。
「スツルム殿、そんな顔じゃ嘘だってバレバレだよ〜」
熱を帯びる頬に無意味だとわかっていて金色の瞳から逃れようと視線を下げる。
「昨日の誘ってくれてたんだね……」
うっとりと目を蕩けさせ、スツルムの赤い頬をドランクは撫でる。
「ごめんね、自分のことばっかり考えててぜんぜん気づかなかったの……続き待たせてるなんて思わなかった」
「……別に待ってない……!」
「えぇ〜すっごく熱烈に名前呼んでくれたじゃない! 僕のことベッドに引き摺りこむし〜」
まざまざと痴態を並べたてられるほど苦痛なことはないと思った。黙れ、と掠れた声で呟いて、両手でその唇を塞ぐ。それでも笑みを崩さない男は、彼女を抱いたまま寝台の縁に座った。
口元の手を大きな掌で包まれる。
「この間、怖かったんだ……その、スツルム殿、とっても小さくて、壊れそうだし痛い思いさせて嫌われたらって……だから続きも出来なくて……情けないよね」
眉をさげたドランクの手は冷たい。
いつも自信と余裕に溢れているくせにこいつは大事なものを大切にしすぎる。そんなに弱くはないつもりだが、怖がりな男にははっきり言わなければ伝わらなかったのかもしれない。
「……痛みくらい慣れてる。そんな柔な身体じゃないの知ってるだろ」
「……うん、そうだね、僕が臆病なだけだったの」
その弱々しい姿をスツルムは嫌いではなかった。体を寄せて唇を同じものにくっつける。
「え、えぇ〜す、スツルム殿っ!? い、今、僕にっ」
「……おまえ酒臭い、顔洗ってこい」
「今から続きしたいくらいなんだけど……」
「仕事が先だ、バカ。…………夜なら」
付き合ってやってもいい。
最後まで言い切る前にドランクの腕の中に押し込められて、あまりにきつく抱きしめられるものだから苦しくて息ができなかった。
明るいのは嫌だと言うから火を消したが、エルーンはほどほどに夜目がきくのをスツルムは知らないらしい。都合がいいので黙っているに限る。しかし、ドランクの下に身を縮ませて沈む体を前にして、よく見える瞳を取り替えたくなった。一度見ているはずなのだが、そんなもの何の慰めにもならない。引き締まった傷だらけの体躯はうつくしくて、けれどそれだけではない女性的な柔らかさもつぶさに分かってしまった。
最後まで理性的でいられるだろうか。
ずっと心臓は痛いほどに高鳴っている。この間とおなじように傷つけないようにひどく慎重に愛撫して、剥き出しの肌に口づけを落とす。
他のところに触れて意識を散らしながらようやく二本目が根元まで入ったとこだった。広がってきた中はしかし、それでも狭い。一度引き抜いた指にドランクは花の香りが漂う潤滑油を垂らす。
「……ドランク、それ、いやだ」
息を絶え絶えに首を振るスツルムにドランクは困ったように笑う。
「でもこれで滑りを良くしないと挿れるときすっごく痛いよ……」
「っ痛い方がマシだ……! それ、変な気分になるから嫌だ」
「気持ちよくなるのは別におかしなことじゃないよ、僕のせいでスツルム殿に痛い思いさせたくないんだけど……」
少しでも楽になればと買った油は痛みを軽減させる為に媚薬でも入っていたのかもしれない。これを使って彼女の中を広げている最中、何度もスツルムは達していた。今も頬は真っ赤で吐息は熱い。落ち着かせるように汗の滲む額に口づけて、しかし、びくりと半身が跳ねる。
使いすぎたかもしれない。垂らした分を指から拭って、もう一度入り口を割り開く。十分に濡れているそこはすんなりと二本の指を受け入れる。スツルムの様子を伺いながら指をさらに増やして、掻き混ぜていれば、押し込め切れない泣き声混じりの喘ぎがその唇から溢れていく。体は快楽から身をよじって逃げようとしているが中はきゅうと指を締めつけ離してくれない。そのまま意識を飛ばした彼女は、惚けたような瞳をさせながらもドランクを鋭く睨みつける。
「っ、もういいっ! いれろ……!」
「まだきついよ、スツルム殿……」
「いいから! さっさとしろ、ばか!」
焦れたように腿を擦り寄せる彼女はたしかに辛そうだった。指を引き抜く。ひくりと動く入り口から伝う体液が臀部までも濡らす。指の代わりというには大きすぎる張り詰めたそれをあてがった。さすがにもう怖気づくつもりはないが、こんなに小さな入り口に咥えこませようなんてなんだかひどく悪いことをしている気分になった。
「……それ、ほんとにはいるのか」
躊躇っていれば、そう彼女が零す。
一度目の時、見ていなかったのかもしれない。信じられないものを目にしたかのようにその瞳は腹に乗るそれへ釘付けられている。
「だから言ったじゃない、きついって……もうちょっと広げよっか?」
「い、いい! これくらい大丈夫だ」
強がっている姿が可愛いが指摘するとここでお預けにされるかもしれない。唇を開く代わりに、濡れた入り口に先端を擦りつけた。どこか不安そうな恐々とした赤い双眸がドランクを追いかける。ぞくりとした感覚に、思わず理性を捨てて、強引に貫きたくなった。
「……大丈夫だよ、スツルム殿、そんないきなりいれたりしないから」
危うかったくせに堂々と唇は嘘を吐く。安堵させるように微笑を模りながらもドランクが落ち着きたくてその小さな頭を撫でた。唇を角に落とす。
「……ん、じゃあいれるね、力ぬいて、スツルム殿」
彼女の手を自身のものと絡めながら腰を進めた。先端がゆっくりと呑み込まれていく。想像していた通りそこは狭く、強引さを伴わなければこれ以上は進まないだろう。
「……痛かったら言ってね」
ドランクの指を掴む彼女は真っ赤な顔で頷く。それを目にドランクは腰を押しつける力を強くする。柔らかな肉が纏わりつく感触は強烈な快楽を伝え、理性を揺さぶった。ようやく半分。臍よりすこし下が膨らんでいる様子に全部は入らないだろうと思った。自身のものを小さなそこが咥え込んでいる様は淫靡でもっと奥まで含ませたい欲求を必死に下した。まだ残る脳の冷静な部分が慣れない体では負担が大きすぎると訴えてくる。息を吐いた。
「……大丈夫? 動いていい、スツルム殿?」
「……好きにしろ」
スツルムは普段の通り言ったつもりなのだけど涙をためて、かすれた甘い声で囁かれると臆面通り受け取ってしまいたくなる。劣情に耐えて、唇を開く。
「……動くね」
一度腰を引いて、浅いところで出し入れする。ドランクにはすこし物足りない刺激だが、スツルムは快楽に必死に抗っているように見えた。
「……スツルム殿、気持ちいいの? 可愛い……」
「……っ、…ぁ……」
唇を開けば声が漏れるのを恐れて、ただ彼女はドランクを睨め付けながら首を振る。今にも泣きそうな瞳にぞっとした。すこしだけわいた悪戯心に口元を緩める。
「じゃあ痛い? もうぬいちゃう?」
ドランクが引く仕草をするとそれを止めるよう腰に両脚が絡んだ。きっと無意識だったのだろう。羞恥に歯を噛み締めるスツルムはたまらなく可愛かった。
一番深くまで押し込んで奥を突いたらどんな顔をしてどんな声で啼いてくれるだろうか。普段、釣り上がった眉を下げ、蕩けさせた瞳に涙を浮かべながら、甘い音で喘いでくれるかもしれない。
そんな不埒な考え事に囚われていたドランクは、繋がった手を強く握られて慌てて我に返る。危ない。
平常を取り戻すつもりで唇を重ねたが、スツルムはいっぱいいっぱいなのか小さな舌を必死に伸ばしてくる。落ち着くどころの話じゃなかった。大切で大好きな女の子を抱いている実感が今更に身を焦がす。このまま進めているといつ理性が焼き切れるかわからない。いつまでもこの甘い関わりに浸っていたいが早めに切り上げた方が良さそうだ。
「もうちょっと頑張って、スツルム殿」
先ほどより奥に沈めて、揺さぶった。含ませた部分を締め付ける中にもうすこしで達せそうだと思う。
「ね、スツルム殿、声、聞かせて」
反応の良い箇所に擦りつけながら耳を喰んだ。いろんなところに口づけて気づいたが彼女はきっと耳への刺激に特別弱い。舌先を伸ばして、内側を舐めると逃げるように頭が動く。
「…ひっ、や、ドランクッ、そこ、…あ、ああっ!」
ようやく飛び出した甘い声で名前まで呼ばれて、埋め込んだそれが脈打った。すこしだけ律動を早める。
「……好きだよ、スツルム殿」
荒い吐息混じりに囁いて、きつく締め上げられる感覚に誘われるまま吐き出した。強烈な快感が全身に焼き付いて頭が真っ白になる。縋るように首元へ絡む両腕の重みを感じながらその体を抱きしめる。全部、全部、注いでゆっくりと引き抜いた。絡みつく色は白だけではなく、覚えた異様な高揚感を慌てて抑え込んで、その顔を伺った。
「スツルム殿、大丈夫?」
「……別に、大丈夫だ」
鼻を啜る音が聞こえた。全く大丈夫じゃなさそうだ。
震える唇は強く歯を立てたのか切れていて、ドランクは指で魔力を流して裂傷を消していく。
「……ここ痛かったでしょ、噛んじゃだめだよ」
「……おまえがへんなことするから」
潤んだ瞳で睨まれても何も怖くないのだが。
だらし無い笑みが顔に出ていたのか拳が当たってしかしその力も弱い。小さな体躯を抱きこんで一緒に掛布に潜っても大人しくされるままで調子に乗ったドランクはその唇に顔を寄せる。
「ね、ね、こないだみたいに僕、スツルム殿からちゅーして欲しいなぁ〜」
気が緩んでそうな今ならと期待したが物凄く嫌そうに眉を顰められた。これは駄目かもしれない。諦めかけて、しかし、一瞬触れた柔らかな感触に瞳を瞬かせる。自身で強請ったくせに真っ赤になって慌てだす男を怪訝そうに彼女は見ていた。
入らなかった会話的な
「……おまえ、あれでよかったのか」
「え、なんのこと、スツルム殿?」
「……ぜんぶ、入ってなかっただろ」
口にした言葉に恥ずかしくなったのかスツルムはドランクの胸元に額をつける。耳が赤い。
「初めてなんだから入らなくて当然だよ、次はもうちょっと頑張ってくれる?」
スツルムが黙り込んだまま返答がないのでドランクは急激に不安になった。
「……えっと、もしかしてもう僕とするの嫌?」
実はぜんぜん、気持ちよくなんかなくて、もう二度と御免だとか、なんて考えていれば腕に爪を立てられた。痛いが何となくそれが彼女らしい答えでドランクは気づかれないようそのつむじにくちづけをそっと落とした。
2021年2月4日