暑い夏の日の事
一緒にバカンスに来て焼けたスツルム殿とセッする話 R-18
寝台の縁に腰掛け魔法具をいじっていたドランクは何度目か分からぬほど同じ動作で頰に垂れる汗を拭った。室内は陽の光がはいるわけでもないのに灼熱の中にいるような感覚である。
ドランクがバカンスに行こうと提案し、胡乱な瞳をした彼女を説き伏せて避暑地に来たがそれでも暑い。昨日、一昨日と外に観光や海に出向いたので今日一日はゆっくりするつもりで部屋にいるわけだが、この暑さでは体躯は休まっているのか疑問である。
特にエルーンなんて元々の体温が高いものだから余計に熱が身を焼いた。長椅子で毒々しくも思える鮮やかな青色のジュースをストローから口にしている彼女の額にも汗が滲んでいる。ドランクよりずっと暑さに強い体を持っているスツルムも時折、薄いシャツを掴んで扇いでいるくらいだ。今日は相当温度が高いのだろう。
「スツルム殿〜何見てるの?」
隣り合う腿がくっつくくらい傍にいけば嫌そうに顔を顰められた。ドランクはこれ以上暑くなることはないので好きに密着するがスツルムにはいい迷惑だろう。暑いと苛立たしげに脛を蹴られたが退くつもりはない。それを察して諦めた彼女の視線が下に戻る。
膝の上に置かれた雑誌にはこのビーチにある飲食店が食べ物の写真と共に紹介されていた。
「あ、ここ、昨日、行ったとこ! 美味しかったよね〜 今日の夜はどうする〜?」
彼女が無言で指差したのはいかにもスツルムの好物そうな肉の塊が乗った丼である。ドランクは暑さで食欲が減退しているので出来れば隣の彩よく野菜が飾りつけられた冷たい麺の方が良かった。
しかし、美味しいものもいっぱい食べられるよ、お肉とか。なんて甘言も含めて連れてきたのでドランクに否と唱える権限はない。今日の夕食は彼女の食べる様子を眺めているだけになりそうだ。それが楽しくないわけでもないのだけど。
ちらりと横を見る。海に行って泳いだせいか小麦色に染まった脚や腕が丈の短いズボンと汗で体に張り付くシャツから伸びている。
汗が落ちた。ただ雑誌の頁をめくっているだけなのに彼女の所作に目を奪われて、どうも思考が鈍るのはきっとこの暑さのせいだけではなくなってくる。
視線を逸らした先ですっかり氷の溶けた青い飲み物が揺れていた。
「スツルム殿〜、それどんな味がするの?」
「甘い」
そう言ってまた一口分、ストローが色づいた。青が彼女の口元へ登る。
先端が唇から離れた瞬間に濡れたそこに顔を近づける。確かに甘い。がドランクは好きだ。
「っお前! いきなりなんだ……!」
「美味しそうだなあってぇ〜」
「お前も頼めばいいだろ!」
暑さで赤い顔がさらに染まる。汗で張り付く髪を掻き分けて面を覗き込めばやめろと振り払われた。
「スツルム殿、舌真っ青だねえ。一回付いたら落ちないって知ってる〜? ずっと真っ青なんだよ」
「は? そんなわけ……」
「ね、ちょっと見せてよ、薄いと大丈夫なんだけど〜」
半信半疑ながらも素直に舌を伸ばす彼女は可愛い。職業柄、警戒心は強いはずなのにすぐに騙される。反応が可愛くて面白いのもあるが信頼されている実感を得たくてからかうのはやめられないのだ。
すこし青く染まる小さな舌先をよく見るふりをして近づく。そのまま唇を同じもので塞いで逃げようとする舌を絡めた。まだ咥内は仄かに甘い。合わせるたびに上がる体温に目眩がした。彼女の力の抜けた手からコップが滑り服を濡らしたが、スツルムにそれを気に留める余裕は無いようで鈍い落下音がただ響く。
散々、蹂躙して離した唇からは唾液が滴る。舐めてももうなんの味もしない。
「ん……服、汚れちゃったね」
湿ったシャツに手をかけると怪力で阻まれた。整わない呼吸を繰り返しながらも眼光は鋭い。
「おい…やめろ、ばか…!」
「えぇ〜だって、濡れて気持ち悪いでしょ」
「そういうことじゃ……!」
「……嫌?」
頰を包んだ手は同じくらい熱かった。彼女の視線はあてもなく惑うが振り払われない。嫌なら迷いすら彼女は見せないのを知っているので自然と口元が緩んだ。
「……暑い、からさっさと終わらせろ」
「スツルム殿〜!」
腕に囲い、額に口づける。落ち着かないのか、彼女の指がドランクの釦を外す。
長椅子に押し付けながら、ジュースでべたついたシャツを胸まで上げた。露わになる豊かな胸元を包む色は淡く、普段つけないような色合いでドランクにはよく見覚えのある下着だ。
「あ、スツルム殿、僕が選んだやつ付けてくれてるんだ〜」
「お前が用意した旅行鞄に勝手に入れたんだろ……!」
「えぇ〜そうだっけぇ〜?」
白々しくそう言いながら、前についた留め具を外した。勿体ないけれどその奥にある肌に直に触れたい。
緩んだ隙間に掌を這わせながら、寄せた唇で肌を舐める。甘いような塩辛いような味。白と浅黒さが混じる体はいつも以上に艶かしく思えた。
「もおスツルム殿、日焼け止め塗り直さなかったでしょ〜水着の痕、くっきり残ってるよ〜」
「別にそのうち戻るだろ」
「そうだけどさあ〜肩とか痛いんじゃないの」
白く残る水着の部分を撫でる。紐、から胸元へ。
吸い付くと赤が色づいた。
「おい、見えるだろ、やめろ」
「ん〜大丈夫大丈夫〜焼けてないんだからここ水着で隠れるでしょ〜」
スツルムには誤魔化すようにそう言ったけれど印は見えないような見えるような箇所についていた。泳ぐのが鍛錬になるといると気づいた彼女は明日もまた海に行くだろうし、水着の彼女へ集まる視線を思い出してすこしでも牽制したくなったのだ。
焼けて僅かな白い肌に痕を刻みながら、ズボンごと下着を脱がす。足の付け根に掌を這わせて、汗のせいか湿っぽい下生えに触れた。
「ぁ……!」
探し当てた入り口に指を沈める。浅い箇所と共に膨らんだ突起を親指で弄ると含ませた指にぬるりとした感覚が絡みつく。
下がった目尻と声を殺すように噛み締められた唇。ぞっとして下腹部に集まる熱が痛みを訴える。
「ここ気持ちいい? 明るいとスツルム殿のことよく見えていいね」
「ばか、見るな……」
体ごと背を向けられて、すこし面白くない。照明を落としたがる彼女の姿を見られる機会なんてそうあるものでもないので出来れば目に焼き付けたい。
「僕、スツルム殿の唇にキス、したいんだけどなあ〜」
柔らかい中を指でゆっくりと広げながら角にくちづけてそう零す。そのまま耳へ舌を這わせて、わざとらしく水音を立てる。
「っや………!」
舌先で耳の中を探り、指で弱い部分を擦り上げる。彼女のくぐもった声色に甘さが伴いはじめるので、もっと聞きたくて含ませる指を増やして、かき混ぜた。与えられる刺激に首を振る姿が可愛い。
「ね、こっちむいてよ、スツルム殿……」
唾液を掬い舌を抜いて囁く。お願い、なんて重ねて請うように言葉を連ねれば強く歯を噛み合わせた顔が半分だけ振り返る。
「……うるさい、も、さっさといれろ」
眉根の寄る顔が近づく。生温い感触。
一瞬重なった唇はすぐに離れて、ドランクが無様にも口を開けて呆けている間に彼女はまた顔を長椅子に埋めてしまう。
顔が熱い。行為のせいでも夏の暑さのせいでもないのはわかりきっていた。
「もお、スツルム殿ったらせっかちなんだからあ」
非難じみた言葉ながらも嫌でも口調は弾んだ。
惜しむように絡む肉から指を引き抜けば、入り口が物欲し気にひくついた。
小さく震える臀部を掴んで張り詰めたそれをゆっくり沈めていく。熱い。快楽に視界が眩む。
「っ、動くね」
背後から突き上げるたびに背中がうねって、汗が滑り落ちていく。浅黒い背に残る水着の痕にくちづけたくなるけれど届かないので指でそっとなぞれば、繋がった部分が緩く締め付けられた。
「ん、明日は僕が塗ろうか? 日焼け止め。ここまだらになっちゃってるよ〜」
「っ、自分でする……ん、ぁ……」
「あとで痛い思いするのスツルム殿なのにぃ〜」
明日、どうやって言いくるめるか考えながら腰を揺らす。甘い香りのものでも使えば興味を引けるだろうか。それとも火傷なのだから剣を振るうのに良くないとでもいい募るべきだろうか。
「や、あぁ、あ……」
甘い音が思考を溶かす。壁に当たるたびに反応する艶やかな肢体を前にしては頭を働かせるのも億劫になってきて、暑さに交じる熱に浮かされるまま律動を早めた。一際大きく穿った瞬間、びくりと彼女の体は跳ね、押し殺した悲鳴が上がる。
きつく収縮する中に堪らず最奥を突いて、促されよう吐き出した。微かに痙攣する小さな体躯を抱きしめて、一滴残らず注ぎ込む。荒い吐息が彼女の陽に焼けて赤い肩を撫でた。
額を伝う汗を拭いながら、惜しみつつも彼女の中から引き抜いた。くたりと投げ出された体を自身の方へと向ける。酷暑のせいだけではない朱に染まりきった顔。快楽の余韻を灯したままのとろんとした赤い瞳がドランクを映す。誘われるようにそこへ唇を落として、熱の篭る頭を撫でた。
「スツルム殿、大丈夫?」
「……暑い」
不機嫌そうに歪んだ顔を背け、そう口にしながらも振り払われないことが嬉しくて、愛おし気に埋めた首筋に頭を擦り付けた。
2021年1月4日