痕つけるの下手くそなスツルム殿の話 R-18


「おい、つかないぞ」
ドランクの首筋に唇を寄せていたスツルムは、不服そうに口元を尖らせる。彼女の唇が触れていた箇所は白いまま代わり映えしない。
「んん〜ほんとだねえ〜もう一回やってみる?」
首を指で示しながら差し出すと再び顔が近づく。
 最中、ドランクがスツルムに痕をつけていれば大抵咎められるのだけど、今日はそれがどうやってついているのか好奇心が勝ったらしい。先ほどから何度か挑んでしかし、柔らかな唇と舌先が肌をくすぐるだけで彼女に染み込んだ赤と同じ色は浮かばないままだった。負けず嫌いな彼女らしくドランクは簡単に出来るのに自分は上手くいかないのが悔しいのだろう。飽きずにドランクの首筋やら肩に吸い付いている。その間は無防備に曝け出された彼女の肢体を存分に視界へ取り込めるわけで、何より小さな唇をもごもごさせながら必死に押し当てる姿は可愛いくて口元は緩みっぱなしだ。
そんなの当然ずっと下手でいい。のでドランクはただ眺めているだけである。
ふと悪戯したくなったのは、いつものこと。ついスツルムをからかいたくなる悪い癖だ。
「ねぇねぇ、見本見せてあげるよ、スツルム殿」
寝台に柔く押し付けて彼女の横腹を舐めた。優しく肌を食むと肩が揺れる。ただ吸い付くだけでいいのだけど、生真面目にも大人しく待ち受ける姿に過分に弄りたくなった。
何度か唇を同じ箇所に這わせて、その刺激に耐えるように小さく震える身体を堪能する。強く吸い上げれば、ぎりっと歯噛みする音が聞こえた。
「ほらついたよ、スツルム殿」
鮮やかに咲く赤が一つ増える。緩慢な動作でそれを視界に入れるスツルムはやり方なんてきっとよくわからなかったに違いない。けれどそれを表に出せるほど素直じゃないのを知っている。そのままドランクにつけようとしてまた失敗する。
「ごめんねぇ、さっきの見本じゃよくわかんなかった? もう一回するね〜」
先ほどと同じようにドランクは痕を今度は胸元へ刻みこむ。教える気なんてないまま印を増やす口実に何度か繰り返して、色んな箇所に鬱血痕が沈み込んだ頃には彼女の瞳はすっかり惚けたようにドランクを映していた。
「…っ、もういい……」
荒い吐息まじりの制止をあげるスツルムにそうだね〜なんて適当に頷いてみせた。たしかにもう充分だろう。眉を寄せる彼女の顔は真っ赤で吐息は熱い。
 敏感な場所ばかり狙って、唇を押し当てていたのだから当然だ。熱を帯びた肌に触れると小さく声が上がる。
無意識か、擦り合わされた腿に手を宛てがって、割り開く。朦朧としてすでに泥濘むそこにドランクのものを押し込むのは容易だった。一気に全て沈ませ奥に当たった瞬間、甘い悲鳴が耳を溶かす。
「ほら、好きなとこつけていいよぉ、スツルム殿」
挿出を繰り返しながらそう口にする。体に回る腕がドランクを引き寄せたが、弱々しく震える唇は触れることはなく、ただ高い声色を撒き散らす。
熱い身体を抱き上げて、膝の上に囲い込んだ。彼女自身の体重で深く抉ったせいか締め付ける中に背筋を甘い痺れが伝っていく。
「こっちの方がやりやすいかな〜どうスツルム殿?」
出来るはずもないことをわざとらしく口に出しながら覗き込んだ顔は朱に彩られ涙でぐちゃぐちゃだった。噛み締められた唇を解すように指でなぞる。自身の肩へ頭を優しく押し付けながら腰を揺らした。
「そのまま吸い付いていいよ」
温い感触は一瞬だ。
肩口を噛まれた。歯が食い込むほどきつくけれど痛みよりぞっとして、含ませたそこをさらに圧迫したのがわかった。収縮する壁に誘われるよう激しく突き上げる。
「ぁあ、あ、あっ……!」
別の鈍痛は彼女が背に爪を立てたからだろう。泣き声混じりの嬌声を落としながら彼女は腕の中で達する。
 ドランクも絡みつく路に促されるまま情欲を吐き出したつもりでけれどまだ収まりがつかない。鈍く痛む肩と爪が抉ったままの肉が熱くてやけに高揚していた。一瞥した肩には小さな歯型がくっきりと浮き出ていて、下腹部が重くなる。可愛い。もっといっぱい。血が滲むほどに刻んで欲しい。
細い腰を抱きながら、彼女が我に返らないように律動を再開させる。さっきみたいに肩へ押しつければまた印を残してくれるだろうか。
そんな期待を想いながらドランクは、彼女が快楽に惑うよう劣情を叩きつけた。

 

2021年1月4日