習慣
つい習慣になっていたそれを団長に見られる話
寝ぼけていた。端的にそれだけだ。そもそもである。ドランクが悪い。最初の要求を無視していればよかった。だが一度、あまりにも煩いので仕方なく聞き入れたら次の日もときた。毎朝毎朝、懲りないのだ。だがしてやると大人しくなるので癖になっていたことは否めない。騒がれるのが面倒だった。ちょっとは自身に非もある。いややっぱりドランクが悪い。甘やかすんじゃなかった。スツルムからすると幸せそうにふにゃふにゃ笑うものだから絆されていたのである。
「スツルム殿〜」
何も聞こえない。聞いてない。
「スツルム殿ってばぁ〜無視しないでよ〜!」
屈んで覗き込んでくる顔、の一部、よく動く唇が嫌でも目についた。血が沸騰する。頰が熱い。
「近づくな! あっちいけ!」
「ひどいよ、スツルム殿、僕なあんにも悪くないよぉ、寝ぼけてたのスツルム殿だし」
「お前のせいだ! 毎日毎日うるさいから!」
「毎日してるんですか〜! やっぱりお二人はとっても仲良しさんなんですね〜」
「ルリア、あっちに行こうか、お邪魔しちゃ悪いし」
純真な明るい声色と少年の、生温いものを見る目が突き刺さる。彼らを失念していた。
たまたま次の依頼が行き先と同じ島だったからグランサイファー乗せてもらったのは暁光だった。野宿続きで久々に屋根のある下で眠って気が緩んでいたのもある。珍しく寝坊して、しかし起こしにきたドランクに毎朝、強請られているせいでこの衆目の場ですら口付けてしてしまうほどだとは思ってなかった。
室内ならまだよかった。けれど開いた扉の先で不運にもこの騎空艇の主と少女が通りかかっていた時、強引に胸ぐらを掴みドランクを屈ませてまで唇を重ねてしまったのだ。煩いからただただ黙らせるための行為として寝起きの脳が勝手に下した決断であった。
相変わらず目前の男は、だらしない笑みを浮かべていたけれど我に返ったスツルムは羞恥で死にたくなった。とりあえず刺したくらいで収まるものではない。護身用のナイフは寝ぼけていても忘れないのにどうしてあんな醜態を晒してしまったのだろうか。迫り上がってくる熱に耐えても耐えても頰は真っ赤なままだ。
「いった! ちょっとぉ! 無言で刺すのやめて! スツルム殿ってば〜!」
怒りのぶつけ先はこのエルーン以外いないのである。しかし言葉とは裏腹にあまり効いていないので延々と続くかと思われたがドランクが反撃のように顔を寄せてくることで一応は決着した。
通りがかった団長の妹が目を剥いて見ていたことにスツルムが気付くのは三秒後のことである。
2020年5月8日